書評検討会討論要旨

今回の読書会は各自の課題図書の書評報告を行った。岩根報告では宮本誉士『御歌所と国学者』(弘文堂、2010年)。田中報告では吉田俊純『寛政期水戸学の研究―翠軒から幽谷へ』(吉川弘文館、2011年)。松川報告では、『徂徠学と朝鮮儒学―春台から丁若?まで』(ぺりかん社、2011年)を取り上げた。

岩根報告では、これまで研究が乏しかった御歌所に携わった国学者たちの思想と動向を考えるという意味において、本書は取り上げる価値があるという研究の不足という根本的な状況を考慮に入れなければならないと述べた。そのうえで本書で取り上げている国学者の来歴や思想の検討などは、今後において、明治国学を考える意味での基礎的な作業をなしたのは、評価されるべきものがあると報告したものだった。

田中報告では、従来の水戸学理解として前期と後期に分ける視点がいまだに乗り越えられていないという現状を考察したうえで、本書がもつ論点と疑問点を示したといえる。従来の研究では立原翠軒は顧みられなかったこともあり、翠軒を俎上に置いた本書を考察したものだった。また吉田氏の見解についても幾つか疑問を提示した。

松川報告では、本書が東アジアという、より広い視野から思想史を叙述する試みとして評価したうえで、内容紹介と、報告者の私見を述べたものだった。とりわけ本書が用語として使う「徂徠学的人間論」という見方に違和感を示した。また「東アジア」へといかに切り開くのか、という課題がいまだにあり、それは今後の研究者が共有すべき課題であることが述べられていた。

質疑応答は、多岐にわたるが、今回は新しい研究動向への各自の考察が散りばめられており、長時間ではあるが、実りある研究会になったと思われる。

(文責:岩根卓史)