荷田春満「創学校啓」史料精読(第1回)

参加者は二名。(岩根・田中)

報告者が担当範囲を意訳し、加えて考察を行った。考察では、荷田春満の略年譜と史料をめぐる真贋についての研究を紹介したうえで、荷田春満は『万葉集』を〈教誡〉を示したテクストと捉えていたことを考察した。このように和歌を〈教誡〉として捉える視点は、浅見絧斎や戸田茂睡のテクストにも見られるものであり、同時代的に共有された言説であることを確認した。また、荷田春満の歌集として編纂された『春葉集』に序文を書いた上田秋成の万葉論と「古学」への姿勢を参照しながら、上田秋成が「古学」を「うつれるさま」を知り、「今に至る」ことの意味を考えながら学ぶべき姿勢を説き、その文脈の中で、荷田春満の冠辞論を高く評価していることに着目していると結んだ。

質疑応答では、史料の解釈について、原文と意訳を照合したときに、「教化周からざれば、則ち治を先王に深くす」(p330)という箇所について、「教化が遍くいきわたるならば、その治世は先王より深いものとなりましょう」と訳したことに関して、妥当なものかどうかという質問がなされた。
報告者は前後の文脈を考えるならば、そのような意訳が妥当ではないかと答えた。また「維新之化」と春満が表現したことは、春満も儒学的な意味での王朝交代を容認していると考えられるので興味深い表現であるという指摘がなされた。また報告者の研究テーマでもある歌学に関しての基本的な質問も受けた。

参加者は二人と少なかったとはいえ、有意義な時間を過ごせたといえる。

(文責:岩根卓史)